
『焙煎機本体の保有熱を調整する』
これまで「保有熱の調整」について、外気温や室温、生豆の温度変化などをお話してきました。
しかし、保有熱の中で最も大きな影響を与えるのは――
焙煎機本体に蓄えられた熱量です。
今回は、低温焙煎における重要な準備作業、
『焙煎機本体の保有熱の調整』
についてお話しします。
雑味のないコーヒーを試してみる
低温焙煎では、
- 160℃で生豆を投入
- 155℃でバーナーに点火
- 133〜134℃付近で温度を安定
させることを基本としています。
その前段階として、焙煎機を80℃まで冷却します。
しかし、本当に重要なのはここからです。

焙煎の熱量について少し考えてみましょう。
手網焙煎のような直火焙煎では、熱源のほとんどが火力です。
ところが、鉄の塊である焙煎機では違います。
焙煎は、
「焙煎機に蓄えられた熱量」と「火力の熱量」
この両方によって進行します。
そして実際には、
焙煎機に蓄えられた熱量の影響は想像以上に大きい
と私は考えています。

例えるなら、冷却不足の焙煎窯は
「カンカンに熱したフライパン」
と同じです。
熱くなり過ぎたフライパンでは、食材の表面だけが先に焼けてしまいます。
コーヒー豆も同じです。
窯が熱を持ち過ぎていると、表面ばかりに火が入り、芯まで均一に熱が届きません。
火力だけに頼った焙煎は、
豆の表面を焼くだけの焙煎になりやすく、
味わいも硬く、未熟な印象が残ります。
一方で、窯の蓄熱を上手く利用した焙煎は、
まるで
「熱の布団で豆を包み込む」
ような状態になります。
熱がゆっくりと芯まで届き、
ふっくらとした煎り上がりになります。
低温焙煎のコーヒーを味わってみる

ただし、保有熱は多過ぎても少な過ぎてもいけません。
大切なのは、
生豆の繊維質がほぐれやすい“ちょうど良い温もり”
を作ることです。
そのための準備作業が、
『焙煎機本体の保有熱の調整』
なのです。
低温焙煎では、火力は主役ではありません。
火力は、
「熱の布団」が熱くなり過ぎたり、冷め過ぎたりしないように整える補助の熱源
という考え方をしています。
私の経験では、
直火の熱よりも窯の蓄熱の方が、豆への影響は大きいように感じています。
科学的な証明があるわけではありません。
しかし44年間焙煎を続けてきた中で、この考え方が最も無理なく、安定した結果につながっています。

ここまでのお話で、
なぜ低温焙煎が「生豆の繊維質を解す工程」を重視しているのか、
少しご理解いただけたでしょうか。
そのためには、
窯の保有熱を整える準備作業が欠かせない
のです。
それでは、実際の調整方法をご紹介します。
① 焙煎機を80℃まで冷却する
まず窯を80℃まで冷まします。
② 83℃まで温める
バーナーを全開で3秒だけ点火し、
温度を83℃まで上げます。
③ 再び80℃まで下がるのを待つ
温度計が81℃になったら、
80℃まで1℃下がるのに何秒かかるかをストップウォッチで測定します。
最初は1分以上かかります。
④ この作業を繰り返す
80℃になったら再び83℃まで上げる。
この工程を数回繰り返します。
すると、
1℃降下する時間が徐々に短くなってきます。
⑤ 目安の時間になれば完了
- 冬場:20秒以下
- 夏場:30〜35秒程度
まで短くなれば、
窯の過熱が落ち着き、保有熱の調整はほぼ完了です。
ただし、外気温や湿度、気圧などの影響で微妙な差は生じます。
そのため最終的には、
実際の焙煎の進み方を見ながら微調整します。
「意外とアナログだな」
と思われたかもしれません。
しかしこれは、
温度計だけでは測れない窯の蓄熱量を把握するために辿り着いた方法なのです。

温度計が示す80℃は、あくまで表面温度の目安です。
焙煎直後の80℃と、
しばらく放置した後の80℃では、
実際に窯を触れば温もりが全く違います。
つまり、
窯の内部に蓄えられた熱量が違うのです。
もし、この工程を省略して単純に80℃になっただけで焙煎を始めるとどうなるでしょうか。
同じ火力でも、
その後の温度上昇はどんどん速くなります。
焙煎時間も短くなり、
結果として、
豆はハゼているのに未熟さが残る。
さらに深煎りに進めざるを得ない。
そんな焙煎になりやすいのです。
ここまで読まれて、
「本当にそんなことがあるのだろうか」
と思われた方もおられるかもしれません。
実は私自身も、若い頃は強い火力で短時間焙煎をしていました。
しかし浅煎りにすると、
未熟で酸っぱいコーヒーばかり。
その失敗を数え切れないほど繰り返しました。

そして試行錯誤の末に辿り着いたのが、
今の
『低温焙煎』
という焙煎スタイルです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、
『低温焙煎における理想の温度上昇曲線』
について解説していきます。
44年の焙煎経験から生まれた
フクモト珈琲の低温焙煎。
苦味を抑え、
香りと甘みを引き出したコーヒーです。
